【レポート】世界的なパンデミックが及ぼす運動習慣への影響(Part 2)
世界中で人々のアクティビティ(運動習慣)の地殻変動が起きている。このパンデミック危機の中、この情報を公に提供することがガーミンの義務であると考えたため、ここに記す。
丁度この記事を掲載する1カ月前の2020年3月23日、イギリス政府は、新型コロナウイルス感染症に対し最も脆弱である企業や公的医療サービスNHS(National Health Serviceの略)を守るため、ロックダウン宣言のプレスカンファレンスを緊急で施行した。100万人のガーミンユーザーから取得したアクティビティトラッキングデータによると、この運命的な日が人々のアクティビティに大きな変化をもたらすターニングポイントとなった。
ガーミンコミュニティの行動の変化や従事する人の多いスポーツやエクササイズの中で、大きな変化があったものについてしっかりと理解を深めるため、ヨーロッパで何が起きているかを調べてみた。特に新型コロナウイルス感染症が確認されたヨーロッパの上位5カ国、イタリア、スペイン、フランス、ドイツ、イギリスに着目、また、非定性的な指標の参考とするため、大きな外出制限がなく身体的距離の制約も最小限としているスウェーデンを引き合いに出す。
100万件のガーミンユーザーのデータを見ることで、独自のアプローチと方法論を提唱できる。これは非常に重要な見解となるはずだ。なぜなら、歩数計のデータだけを集めただけでは、今回のレポートの内容は提唱できない。注意すべきなのは、歩数がすべての国で減っているがために、歩数単体を引き合いに出し人々の運動量が減っていると一概には言えないということである。理由は後述の通り。
例として、120平方メートルのアパートで隔離されているイタリアの女性を見てみよう。物理的な監禁に伴い、彼女の歩数は劇的に低く記録される一方で、バーチャルトレーナーでは毎日20kmのサイクリングを行っている。パンデミックにより彼女のアクティビティレベル、つまりは運動量は減っただろうか? 答えはNoだ。むしろ彼女はいつもより多く運動している。この状況が彼女のルーティンを変えたのだ。
精度の高い分析とデータを深く読み取り理解することは、全世界で何が起きているか真実を描くのに非常に重要である。ガーミンウェアラブルデバイスでは、20以上ものスポーツやアクティビティアプリに対応している。世界中の幅広いユーザーが基となっている、この幅広い機能のデータは、人々がただ動いているか否かを語るだけではない。どのように運動しているかを教えてくれるのだ。
それではデータを見てみよう
それぞれの棒グラフは前述した通りの6ヵ国を示している。イタリアで2020年3月9日、国家単位のロックダウン宣言が発令、この影響が出始めたと共に、次第にほかの国も制限を実施している。ここでは、一貫した条件でかつ鮮明な画を描くために、3月9日を中間地点とし、5週間前と5週間後の割合の増減を比較していく。尚、グラフ上に記載はしてないが、2019年の同時期のトレンドも併せて検証し、季節的な増減を差し引いた上で新型コロナウイルス感染症が起因している影響を算出している。
サイクリング
まずはインドアサイクリングから始めよう。上述した仮説のシナリオも相まって、フランス、イタリア、スペインなど、歴史上類を見ない厳しいステイホームガイドラインを敷いている国で、驚くべき結果が露呈された。フランスでは、ロックダウン前と後を比較したところ、157%のアクティビティの向上が確認された。スペインとイタリアでは、それぞれ273%と309%の増加がインドアサイクリングにおいて記録された。繰り返しとなるが、この規模の変化は過小評価できない。従来春のシーズンでは減少すべきであるアクティビティが、歴史的にも異例の増加傾向が確認できているのだ。これは今まで決して起こらなかったことである。
注目すべき点:インドアサイクリストの大半はスマートトレーナーを用いたバーチャルライディングだ。これは、Zwiftのようなサードパーティプラットフォームとアクティビティを同期していることを意味し、ユーザー同士が仮想現実内で世界中の人と通じ合えることを可能にしている。つまり、「離れていても心は一つ」といったメッセージを聞いた時に、サイクリストにおいては本当にそれが現実となっているのだ。
さらに、多くの人のインドアサイクリングの記録を取るにつれ、1度に乗る際の平均距離が向上していることが確認された。これはあたかも”パンデミックの状況にも負けない“という、新たに見出されたモチベーションを示唆するかのようである。スペインでは1度に乗る平均距離が41%も向上した。一方で、ドイツではアクティビティ全体ではわずかな低下傾向が見られたにもかかわらず、1度に乗る平均距離が12%向上した。尚、スウェーデンでの3月1日の急激な伸びは、Vasaloppet ski race(伝統的なスキーの大会)と関連しているようで、仮説としては多くの人がレースに参加する代わりに屋内サイクリングを行ったのではないかと考えらえる。
ドイツとイギリス、スウェーデンでのアウトドアサイクリングを見てみると、屋外での活動について明確なトレンドが示唆された。ドイツ単体で見ると、アウトドアサイクリングでは153%の増加がみられた。2019年の同時期では36%の増加のみであったため、季節的な変動ではないと取れる。これは全体的に、逆境に直面したことでより活発に動きたい欲求が増えるなどといった心理的要因が起きた可能性が考えられる。また、この3カ国と比較した際に、フランス、イタリア、スペインの3カ国がいかにステイホームオーダーを従事しているかがよく表れている。
一般的なフィットネストレーニング
しかし、マス(大衆)の動きはどうだろうか?結局のところ、全員がサイクリストであるわけではない。この考察については、フィットネスマシーンの活動データに注目した。これはガーミンデバイスで既に入力されているアクティビティのプロファイルも含んでいる。例えば、ウォーキングマシーンやインドアカルディオ、インドアローイング(ボート)、ステアマシーンや筋力トレーニングなどだ。この結果にも改めて驚かされた。
イタリアでは、ロックダウン前や後において、フィットネスマシーンでの活動が105%増加した。フランスやスペイン、UKでの人々も、それぞれ80%、93%、8%それぞれカテゴリーで増加した。これらが意味するものとして、強いロックダウン宣言がある国での生活でも、どうにか体を動かそうとする傾向があるということだ。
ゴルフ
もしゴルフをしたい人がいるなら、スウェーデンに行くと良い。事実として、スウェーデンでは、冬後のコース近辺への移住が2019年と比較しても非常に増えている。北欧では、この期間中でも741%の異常な増加傾向が見受けられた。一方ゴルフスポーツの人気が高いイギリスにおいては、6月に予定されていたイギリスオープンが最近キャンセルされたこともあってか、-26%減少しているので、それを鑑みても北欧での動きは特筆すべき傾向だ。
ランニング
ランニングではどうだろう。ランニングは春のシーズンアクティビティで一番人気であり、より一般的なものである。しかし、国単位で厳格なロックダウンを行ったスペインとイタリアでは、屋外でのランニングはそれぞれ-68%、及び-42%と著しく数字を落としている。
データをより深く分析するにつれ、強い制限が設けられている国の人々は実際にそれをしっかりと受け入れていることが分かる。そして、その中でもバーチャルランニングを行っているケースが多い。イタリアやスペイン、フランスのランナーの活動は、それぞれ130%、84%、18%増加している。
ではドイツ、スウェーデン、イギリスのランナーはどうしているのだろうか?データ上では彼らもまた異なった振る舞いをしている。これら3カ国では、屋外でランニングを行う人がなるべく短い距離を走っているようだ。これについて推測するに、ドイツ、スウェーデン、イギリスのランナーは、ステイホームの制限自体はそこまで強くはないものの、外出自体は控えられていると考えられる。つまり、屋内ランニングが増加している一方で、屋外のランニングも継続されているが、比較的家の近くを走る傾向があるということである。
水泳
水泳に関してのデータを見ると、各国ともにロックダウンを宣言した日に大きく落ちているので、とても興味深い。それぞれの国が屋内避難をアナウンスしたことで、スイマーは泳ぐのをやめたようだ。規制がさほど強くなく、緩やかなアクティビティの減少が確認できるスウェーデン除いては。
フロアクライミング(階段走)
最後にフロアクライミング(階段走)だ。グローバルパンデミック期間に最初に考慮すべきスポーツではないにせよ、最後の項目として述べておきたい。データによれば、スペイン、フランス、イタリアで大きな影響がみられた。
注目すべき点:階段走は前述したフィットネスマシーンであるステアマシーンとは異なる。ここでは、マンションや家の階段を走って上り下りするような人が対象だ。フランスでは、103%、イタリアでは急騰し572%。そしてスペインでは、驚くべきことに900%向上した。
これら全てのアクティビティの変化傾向は、得てすると最も興味深いことであり、またとても励みになることかもしれない。屋内待機命令によって課される監禁にもかかわらず、人々の活動記録を見ると、体の健康の悩みを跳ね返しているようだ。フィットネスマシーンがない?大丈夫、僕らには階段がある。
フィットネスは”みち”だ
最初のアクティビティのトレンドの解説で述べたように、我々が見ている数字は具体的なデータあるが、ここで紹介している解説は、業界の専門家として考察に基づく主観的な分析である。どの国も各々の方法とレベルでロックダウン制限を試みているため、それを念頭に置きながらデータの分析を続ける。
今後数カ月は予測不能である。世界中の人々がこのパンデミックの影響の中、活発的なライフスタイルを求める上で、ガーミンは教育や情報共有として役立てるよう、最新の情報を提供していきたい。これは非常に重要なことだ。決して人々に対し何が起きているか知って欲しいわけではなく、人々はこうも逆境に立ち向かい続けているんだ、という事実を我々は最も伝えたい。
ガーミンは、この立ち向かい続けることは人間の先天的な欲求であると考えており、 “beat yesterday(昨日に打ち勝て)”として全社メッセージとして掲げている。これは、本当に心に響くフレーズであり、今なお人々に響くフレーズではないであろうか。